未来の価値 第37話


「というわけでしてね。もう少し掛かりそうなんですよねぇ」

ロイドはにこにこと笑顔で通信画面に向かっていた。

『なるほど。だが、こちらを実現するとなると、もう少し援助をしなければいけないかな?』

転送されたデータを眺めながら、シュナイゼルは楽しげに眼を細めた。
今のままでも十分こちらの要望に答えているが、予算が増えればより理想に近づく段階まで詰められている。そう、あとは予算だけなのだ。

「当然ですよねぇ。それにしてもルルーシュ殿下は面白い事を考えつきます」

ロイドがシュナイゼルに見せているのは、先日ルルーシュが持ってきた資料。
あれを読んでからのロイドはとても楽しげだった。

『確かに、この考えは私にも無かった物だ。だが、面白いだけではない』

固定概念にとらわれ、1+1は2だと答えるロイドたちと違い、ルルーシュは1+1は2ではなく、3にも4にもなれるのだと示してきた。

「そうなんですよ!僕はこれを読んで、目から鱗・・・ってエリア11では言うらしいんですが、とにかく、自分の頭に必要なのは柔軟性なんだなと思い知らされましたよ。いやほんと殿下はすごい!」

ロイドは両手をあげ、まさに手放しで称賛していた。今日は始終この調子だった。ロイドはひたすらにルルーシュがすごい、流石殿下とて手放しで褒め称え、シュナイゼルは楽しげにそれを眺めている。
異様と言えば異様な光景だが、ルルーシュを褒められ、そして宰相が受け入れているこの状況は嬉しくもあり、スザクもまた自然と口元がゆるんでいた。

『では、今後もルルーシュの協力も得ながら進めてくれたまえ』
「はーい。お任せくださいシュナイゼル殿下」

言われなくてもそのつもりですと、ロイドは答えた。

『ところで、スザク君、少しいいかな?』
「はっ」

にっこり笑顔で名前を呼ばれ、スザクは慌てて姿勢を正した。
しかも今まで枢木准尉呼びだったのに、何故か下の名前で君付けで呼ばれたため、一瞬で楽しかった気分は消え去った。

『そう畏まらなくてもいいよ。今日は君に少した尋ねたいことがある』
「自分にですか?」

ルルーシュや科学者たちと違い、スザクに知的な会話など出来ない。
どうしようと内心冷や汗を流していると、シュナイゼルは驚くべき事を口にした。

『君が、ルルーシュと仲良くしている事は知っているよ。あの子をよく守ってくれている。兄としてまず礼を言わせてもらう』

あのシュナイゼルが礼?突然のことに、スザクは慌てた。

「いえそんな、自分は大したことはしておりません」
『そんなことはない、君は期待以上の成果を上げている』

暗殺におびえ眠ることすらできず、まるで何かに急かされるように仕事に没頭するルルーシュを眠らせて、仕事を取り上げられる唯一の人物。
誰も信用しないルルーシュが唯一信用と信頼を向けている人物。
スザクがいることで、クロヴィスとシュナイゼルがどれほど安心できるか、当の本人は解っていない。

『そこで、君に頼みがある』

きた。
絶対何かあると思っていた。

「何でしょうか、殿下」
『君は、ルルーシュの騎士になるつもりはないかな?』

え?と、予想外の言葉に顔をあげ目を瞬かせた。

「騎士・・・ですか?」
『正確には、ルルーシュの専任騎士に、だね』

専任騎士。

『今すぐに答えが欲しいわけではないから、じっくりと考えてみてほしい』

そう言うと、他の仕事の時間が迫っているらしくシュナイゼルとの通信は切れた。
暗くなったモニターをスザクは見つめたまま動かなかった。

「シュナイゼルがスザク君を殿下の騎士に、だなんて、予想外だったなぁ」

でもそうなれば、ルルーシュが動けばランスロットも動くことになる。
今よりもデータが取りやすくなるよ。と、ロイドは大喜びだ。
セシルは何故か涙ぐみ、スザク君が認められたのね。と言っていた。
そんな楽しげな二人には悪いのだが。

「・・・あの・・・」

頼りなく声を出したスザクに、科学者二人は首を傾げてスザクを見た。

「どうしたの、スザク君」
「なになに?もしかして蹴るの?こんないい話を!?」

冗談でしょ!?と、驚くロイドにスザクは首を振った。

「あ、いえ、その・・・専任騎士って、なんですか?」
「え??」
「えっと、その、騎士っていろんな種類があるんですか?」

恥ずかしそうに頭をかきながらスザクは尋ねた。

「・・・専任騎士って言うのはね、皇族が持つことのできる特別な騎士だよ?」

ホントに知らないの?と驚くロイドだが、スザクの反応がいまいちだったのは知らないからなのねとセシルの方は納得の顔だ。

「特別な、騎士?」
「そ。皇帝ちゃんには12人の騎士、ナイトオブラウンズがいるでしょ?それと同じで皇族は一人だけ騎士を持つ事が出来るんだよ。まあ、KMF乗りは君以外全員騎士と言えば騎士なんだけどね、それとは全く別物」

KMFに騎乗が許されるのは騎士侯以上。
つまり、地位を持たない者でもKMFに騎乗が許されれば、騎士侯、つまり騎士になれる。例外は名誉のスザクだけ。

「皇族がたった一人だけ選ぶ、自分のためだけの騎士だからね。ラウンズに次ぐ高位の騎士なんだよ」

人によっては、ラウンズよりも価値のある地位だよ。

「・・・つまり、僕にルルーシュ専用の騎士になれ、という話だったんですか?」
「だ~いせ~いか~い。殿下が頼りにしてるのってスザク君だけでしょ?殿下の身の安全を考えると、納得の人選だよねぇ。まあ、問題がるとすれば、普通の騎士もそうだけど、ブリタニア人以外なれないってことぐらいじゃないかな?」
「ブリタニア人以外なれない・・・」
「それですが、前例がないというだけで、禁止されていませんから・・・」
「多分ね。その辺を突いて上手くやるつもりでしょ。でもあのシュナイゼルがねぇ」

物事に執着のないはずなのに、ルルーシュの事は気にかけている。ロイドはその事に驚いたが、自分もまたルルーシュを気にかけているのだから、ルルーシュがそういう存在なのだと納得するしか無い。
騎士の話がシュナイゼルから出たということは、この話をルルーシュは知らないだろう。なぜなら、ルルーシュは騎士を望んでいない。話をしたところで拒むことは目に言えているのだ。ならば、まず周りを固めてしまおうと考えているのだ。
唯一ルルーシュが傍に置くだろう人物はスザクのみ。
それ以外は誰が見ても無理なのだから、スザクをルルーシュの傍に置くべきだ。
例え、名誉でも。
それは大賛成。
なのでロイドは楽しげだった。

「ルルーシュの騎士・・・つまり、ルルーシュの傍に堂々といられるという事ですよね」

名誉であるスザクはルルーシュの公務に付き添えない。だが騎士なら別だ。地方に行く際にも、傍にいる事が許される。寧ろ、居なければならない。

「そーいうこと。今の君って、名誉なのに殿下を叱り飛ばしたりしてるけど、普通そんなことしたら皇族侮辱罪で投獄でしょ?政庁ではみんな殿下が無理をしているのを知っていて、それを君が止めて、周りが喜んでるから奇跡的に成り立ってるんだけど、専任騎士になれば、外でも堂々と殿下を諌める事が可能になるんだよねぇ」
「なります」
「それに・・・え?」
「なります、ルルーシュの騎士に」

スザクは真剣な表情で言った。

「・・・良いのかなぁスザク君。専任騎士は一生ものだよ?生涯をルルーシュ殿下に捧げることになるんだよ?」
「そうよスザク君。一生に関わる事なんだから、時間をかけて考えた方がいいわ」

あっさりと決めたスザクに、先程まで蹴るのはもったいないと言っていた二人は、一生のことなんだからじっくり考えるよういうのだが。

「いえ、決めました。僕はルルーシュの騎士になります。今の状態が特殊だとは理解していますし、その特殊が何時駄目になるかも解らない。なら、彼の専任騎士として正式に傍にいられるようにします」
「スザク君・・・」
「セシルさん、僕はまだこの国が日本だった頃、思っていた事があるんです。・・・いえ、戦争前だけじゃない、その後も思っていた事です」
「なにかしら?」
「・・・僕の友達を・・・ルルーシュとナナリーを守りたい。僕にとって二人は・・・昔から特別だったんです。彼の騎士になれば、堂々と守る事が出来るというなら、迷うことなんてありません」

なります、彼の騎士に。
迷いのないスザクの答えに、ロイドとセシルは笑顔で頷いた。

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